即アポすべきかテレフォンセックスすべきかそれが問題だ

「おれはテレクラ専門の天才役者、その名も“七色いんぽ”だ。おれはただのテレフォンセックス好きの色情狂さ。好きなテレフォンセックスをさせてもらって、それなりの見返りとして即アポをもらう男だよ」なんて大見得を切ってからテレクラのツーショットで繋がる素人女性を大胆に口説いたことはないけれど、私のテレクラスタンスは大体こんなところであろう。

「この世は舞台、男も女もみな役者だ」という世界劇場の思想を拡張して考えれば、テレクラだって性的な戯れを演じ合うための舞台なのだし、テレクラを使う男も女もみんな役者だ。

テレフォンセックスと即アポのテクニックはそれぞれ超一流、テレクラという領域に限っていえば、どんな名俳優にだって負けるつもりはない。

テレクラを利用して電話回線で見知らぬ女性との会話が始まった瞬間、私は、テレフォンセックスの遂行、あるいは、即アポの交渉という一本の矢を未来に向かって真っ直ぐに射抜くために、一瞬で「演技」のモードへ突入する。

テレクラでテレフォンセックスをしている私、即ハメを目指して即アポの交渉をしかける私、そして、普段の、テレクラを利用していない時間を生きている「幕間」の私は、それぞれ連続性を断たれていて、まるで別人のようなのだし、テレクラという舞台によって要求される役者としての自意識によって、一つの身体が三分割されているようにも思う。

いや、三分割どころではなくて、繋がった女性とのテレフォンセックス、口説き落としたいと思った女性との即アポの交渉ごとに、「役」は増殖し、「私」というものはテレクラの利用回数に応じて無限の分裂を繰り返しているのかもしれない。

より気持ち良いテレフォンセックスや、素人女性との出会いの確率を向上させるために、自分を捏造したことは一度や二度ではないどころか、むしろ数えきれないほどにあるのではないか。

テレクラでいかに演技するか、その出来によって、テレフォンセックスにせよ出会いにせよ、その成否や満足度が左右されてしまうのだから、私のテレクラという舞台上での演技には自然と熱が入っていった。

テレフォンセックスや即アポ交渉のために演じてきた「私」は数え切れないほどあるわけで、もちろん、即アポに成功してテレクラ女性と即ハメすることになったベッドの上だって舞台なのだから、即ハメの数もさらに加えて、私は私を増殖させつづけながら、同時に、分裂もしていったのだろう。

私のテレクラ人格は素人女性と繋がる回線ごとにゼロから作り上げられ、会話の流れのなかで洗練されていったのだし、一回のテレフォンセックス、一回の即アポ交渉、一回の即ハメごとに、獲得したテレクラ人格を破棄する、そんなことの繰り返しに明け暮れて、テレクラとともに年を重ねた。

迫真の演技によるテレフォンセックス、即アポ、即アポの連続、テレクラという舞台の上で何度も生まれ変わったことによって、私は、テレクラを使わなかった人生と比べて、きっと、何倍もの人生を生きてしまった。

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