テレクラ異界

永遠の生命が与えられてもし不老不死になったとしたら、きっと、私はこの星が滅びるまでテレクラを使いつづけることになるのだろうし、百億の即ハメと千億のテレフォンセックスを経験することになるに違いないのだ。

百億の即ハメ、そして、千億のテレフォンセックス、それは途方もなく、不可能に近い夢である。

しかし、テレクラで繋がった素人女性を口説きまくり、アポの交渉をたえずしかけながら、即ハメにつぐ即ハメをしてきた私、そして、テレクラで繋がった女性との会話中、テレフォンセックスの機運を見い出したならばすかさず濃厚テレフォンセックスに持ち込むことを片時も忘れたことがない私に、永遠の命さえあったならば、途方もない数字だって、決して多すぎるということにはならないだろう。

生きているうちに、テレクラを通して、あとどれほどの即ハメとテレフォンセックスができるのだろう。

第一次テレクラブームからテレクラを使い始めているから、もう30年近くテレクラとともに生きているということになるのか。

感慨深さから、おもわず「翁」の表情にもなりかけるが、いや、まだ30年ほどでしかない、自分など永遠にテレクラの初心者だ、と思い直す。

テレクラの一時的な衰退と、無店舗テレクラ登場以降の、奇跡としか思われない現在の復興、黄金時代の再来、私はいつまでも残酷なテレクラに支配される。

テレクラがもしかしたらこの世から消滅するかもしれない、と思われたあの危機の季節を乗り越えて、素人女性の即ハメもテレフォンセックスもまだまだ終わる気配がない、という現在のテレクラの時代を迎えるまで、そう、いま、まさにこの瞬間にいたるまで、自分が「テレクラ」について考えなかった日はない。

年老いてもなお、依然として性的には強いままでいる自分の性的な能力はどこまでその吸血鬼のような精力を保ち続けることができるのか。

私の陰茎も、いずれしなびてしまい、どれほどエロかわいい素人女子を前にしたとしても、凝縮された性のエキスを耳元から注ぎ込まれるような濃厚テレフォンセックスを体験したとしても、わずかな勃起の気配も見せなくなってしまう最期の日がいつかきてしまうのだろうか。

最近はますます過激にテレクラの夢を見るようになった。

テレクラを使っていない眠りの時間のなかでも、自分は即ハメとテレフォンセックスをたえまなく繰り広げている。

現実でプレイした即ハメやテレフォンセックスの記憶と、夢のなかでプレイした即ハメやテレフォンセックスの記憶の区別は、どんどんつかなくなっていく。

自分の身体のなかで混じり合い、目覚めながら見る夢のような即ハメ、夢見ながら覚醒するようなテレフォンセックスの記憶はいよいよ渾然一体となってさんざめく。

「あのときのマリエンバート！」と叫ぶ私自身の鋭い悲鳴によって、私は眠りから目覚める。

寝汗をかいた手にはテレクラ女性とツーショットダイヤルをした痕跡を宿すスマートフォンが握られている。

眠りに落ちる前のツーショットダイヤルだったのか、眠りながらしたツーショットダイヤルだったのか、夢から目覚めたばかりの意識でははっきりと思い出せない。

顔を洗いながら、なぜだか、即アポした女性との待ち合わせの約束があったような気がしてきて、街へと飛び出し、街中に溢れかえる素人女性の海で溺れそうになり、すがるようにして無店舗テレクラの番号を確認する。

「去年リンリンハウスで……」と私が街をゆく素人女性に唐突に語りかけると、女性は面食らったような、私との即ハメのこともテレフォンセックスのこともすべて忘却しているような表情になるのだが、私が即ハメやテレフォンセックスの話をするうちに、女性はテレクラ女性としての記憶を少しずつ取り戻していく。

女性の記憶を喚起させるために話す私のテレクラエピソードは、現実と夢と虚構が混じりあってしまっているのだが、快楽のなかで融解しきった真実のテレクラ体験として、そのすべてを語り直す時期がきているようだ。

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