最寄りのセンターから遠く離れて

そもそも地域ごとに電話番号のコードが違うのだし、地域コードのあとに羅列されることになる数字が完全一致することもほとんどないのだから、テレクラの最寄りセンターの電話番号を間違えるなんていうことはまず起こりえないはずなのだが、自分の居住区とはまるで違う地域の無店舗型テレクラに電話をかけてしまうことがたまにあるのは一体どういうことなのだろうか。

無論、わざとそうしているのではない。むしろ使い慣れたテレクラに電話をかけたつもりのときに限って、思いもよらない地域のセンターに電話をかけてしまっている自分がいるようなのだ。

最寄りのセンターに電話をかけているという思い込みとともにツーショットダイヤルが開始されるわけだから、受話器越しに耳元に届けられる女性の声のわずかなトーンの違和感に少しばかり面食らうことになることにもなるのだが、しかし、しばらくはその間違いに気がつくということがない。

ひどいときには、出会う算段が一通りまとまり、待ち合わせ場所を決めるという段階に至って、はじめて相手の女性が自分とはまるで違う地域に住む女性であると判明することもある。

新幹線や飛行機などを駆使してようやく会えるか会えないか、というような極端にはなればなれの身でありながらも、その勘違いに気づいて受話器越しに苦笑しあうような瞬間、私とテレクラ女性を分断する物理的な距離は解体されることがあり、実際にテレクラ女性に会っているときやテレクラ女性の膣内に陰茎を挿入しているときに不意におとずれる埋めがたい隔たりよりもずっと近いものとして感じられる。

テレクラのツーショットダイヤルを通して受話器越しにセックスを求めているようなとき、あるいは、待ち合わせ場所に現れた女性を見て否応なく性欲が掻き立てられ、来るべきセックスに向けてラブホテルに移動しているときに段階ごとに去来する「自分は、いま、まさに、この女性に接近しつつある」という熱い予感に満ちた期待の感覚は、あれほどまで狂熱的に望んだはずの「挿入」と同時に白けてしまうようでもあり、遠のいて、さめきったものになっていく。埋めがたい隔たりとは、そのようなものだ。

近くにいるはずの女性、というよりも、男性器を女性器に挿入しているのだから、お互いの境界線を侵食しあい、ペニスとヴァギナによるベン図とでもいうような重なりが発生しているはずの女性に対して抱く、この埋めがたい隔たりと、そのような隔たりのセックスをしてからしばらく持続することになる、みずからの所在が不明になるような浮遊感への不安に突き動かされて、私は、最寄りではないセンターの出会うことができない女性に電話をしてしまっているのかもしれない。

最寄りのセンターを利用して即アポをしかけたテレクラ女性に会いに行くとき、よく知った道のりが、その表情をいたずらに面妖なものに変化させ、迷うはずのない道で迷い込んでしまい、同じ場所をぐるぐると回り続けるような状態に陥り、ついに、テレクラ女性が待つ既知の待ち合わせ場所にたどりつけない。そんなこともある。

不測の事態があって行けなくなった、ということを伝えて謝罪する連絡をテレクラ女性に入れるとき、その申し訳なさとは裏腹に、どこか安堵している陰茎がいる。

さまよい歩いた路地のなかで汗ばんだパンツのなかで蒸れた陰茎の先端がカウパーを分泌し、その「しみ」はパンツを濡らす汗と混じりあう。屹立した陰茎は未遂で終わったセックスを想いながらゆるやかに収縮していく。

しかし、テレクラ女性とのセックスにたどり着くことができずに漏らしたその溜息は、どこか、ドライオーガズムの息づかいを孕んではいなかったか。

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